2006.12.25 Monday
めりくりSS 〜聖なる夜に…溜息ばかり?〜
聖なる夜に…溜息ばかり?
なんだかんだ言って、コッソリこなしたSOS団本拠地でのクリスマスパーティーは盛況の内に終わった。教師や守衛に見つからなかったのは不幸中の幸いだろう。
只でさえ、涼宮ハルヒの理不尽な思い付きで精神的・肉体的ストレスで成績が下降気味なのだ、内申が悪くなるような事態を招かなかっただけでも運が良かったなと思う。
さっぱり受けなかったトナカイの被り物をしての一発芸は、そのまま凍り付いた空気ごとグツグツ煮えてる鍋にぶっ込みたいような、地中深く【レベル5】マークを貼り付けてコンクリ詰めで埋め込みたいようなズンドコな気分になったが、それも一瞬のことだった。
可愛らしいサンタコスの朝比奈さんと、旨い鍋に癒されて、心置きなく冬休みを迎えられる形となったのは幸せなことだろうが…
「後片付けとゴミの持ち帰り、ヨロシクっ!」
と、いつもの如く、女王様な命令を残して団長は俺の心のオアシスである…朝比奈さん、鶴屋さん、長門を連れてさっさと帰って行ってしまった。
「相変わらずですね…」
ヤレヤレと俺が言おうとしたところで、先に古泉が肩を竦めた。
「ま、端であれこれ言われながら片付けるよりマシだろうよ」
生ゴミを新聞紙で包んでからポリ袋に入れる。鍋の最後は雑炊でシメて汁っ気も全部腹の中に収まったので、意外にあっさり後片付けが終わった。
「これで、お終いですかね?」
几帳面に長机の上を除菌スプレーまでして拭き上げた古泉がクスリと笑う。
あ〜、コイツって、いつもそうだな。
人一倍周囲に気を遣って、感情を笑顔で覆い隠して…。
いつもそんなで…疲れないんだろうかな。
なんて、コトを脳味噌の片隅で考えながら『終わったことにしようぜ』と、安易な言葉を返した。
コッソリ作った合い鍵で戸締まりをし、校門の鉄扉を乗り越えて家路を急ぐ。
身体を包み込むような冷気が地表から浮き上がるように伝わってくる。
先程までの暖かな空間がまるっきりの嘘だったかのように…。
ふっと空を見上げると、街灯の光を反射して銀色に輝く雪が舞い落ちてくる。
あぁ…今年2度目の雪だな。俺的には・・・な。
な〜んてことを、意識の遠いところで考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一瞬、隣にいたはずの彼が夜の闇に紛れてしまいそうな気がして息を呑む。
雪が降り始めた夜空を見上げて溜息を吐く様は、まるで別人のように見えてしまう。
「…どうかしましたか?」
我ながら妙な台詞だと思う。
もう少しフランクな喋り方もあっただろうに、転校してからこっち被ってきた猫の皮は意外に頑丈だった。
正直、馬鹿なことをしたと思っている。そこらの高校生と変わらぬ話し言葉や態度でも…きっと涼宮ハルヒは『超能力者である古泉一樹』を、本能で察してSOS団に編入させることが可能であったはずなのに。組織も無駄に事細かに『謎の(ちょっと変わった)転校生』のキャラ設定をしたモノだから、面倒なことになってしまっているのだ。
そんな演技を止めてしまっても問題無いと組織の上でも許可が下りているのに、頑丈なネコの皮を脱ぐことも出来ないまま、1番近しい距離にある彼に対して丁寧語でずっと通している自分を未だ変えることが出来ない。
だから、この距離も近いようで遠い。
隣で肩を並べて歩いているのに…ずっと遠くの窓から校庭にいる彼を見詰めている…初めて彼を見付けた時と変わらない距離感。
「…どうもしない」
彼からの返事は、いつものように突き放したようなぶっきらぼうな言い方で、心の動きすら読めない。
「いつもよりも、言葉数が少ないですよ」
あまり言いたくはないが、会話が成立しないのは悲しすぎるので、無意識に普段の彼と今の彼を比較する。
「そうか…?」
溜息と共に落ちる声音も闇に溶け込んでいくようで、心がざわざわと揺れてしまう。
空から舞い落ちる雪が、音もなく彼と僕を包み込んでいく…
「…どうもしない」
彼からの返事は、いつものように突き放したようなぶっきらぼうな言い方で、心の動きすら読めない。
「いつもよりも、言葉数が少ないですよ」
あまり言いたくはないが、会話が成立しないのは悲しすぎるので、無意識に普段の彼と今の彼を比較する。
「そうか…?」
溜息と共に落ちる声音も闇に溶け込んでいくようで、心がざわざわと揺れてしまう。
つい、手を伸ばしてその頬にそっと触れる。
すっかり夜の冷気に晒されてヒンヤリとした肌に指先の熱が吸い取られるように感じた。
「なっ…?」
小さく零れた彼の声は、いつものような拒絶の言葉ではなく、ほんの少し切なげに響く呟き。
珍しく視線が真正面からぶつかる。
ほんのすこし見上げる瞳が何か言いたげに瞬く。
『「どうして…?」』
僕と彼の言葉が重なる。
互いの声に惹かれるように、彼との空間を詰める。
両手で彼の頬に触れてしまう。
その手首に彼の両手が添えられる。
やんわりとした拒否なのか、内心を表に出し辛い彼の誘いなのか判断が付かない。
「……」
言葉を忘れたかのように、ただ…そこにある存在を確かめる。
「なんで…泣きそうな顔をしてる?」
それは、こっちの台詞ですよ。あなただって…。
潤んだ瞳に零れ落ちそうな水滴が光っている。
「なぁ、こんな夜は…さっさと帰って暖かい風呂に入って・・・」
ことさら明るい口調で言いかける彼は、僕を通り越して遠く夜空を見上げていた。
「そうですね」
今日ぐらい、真っ当な高校生でいましょうか。
僕らはあまりにもオカシナ関係で、真面目に考えれば辛いばかりで、シアワセなんて刹那の一瞬で。後悔ばかりがついて回る。
本来なら…もっと楽しいイベントになるべきクリスマスだって、罪悪感と切ない気分で憂鬱になるなんて、どうしたらいいのでしょうね?
何度となく、彼との行為を重ねたけれど、この距離感は埋まらない。
理由は分かっている。
総ては僕が置かれているポジションと、彼自身が察している…彼女の鍵としての役割。僕らを囲む状況と現実そのものが僕らの言葉を奪っている。
互いに示し合わせたわけでもないのに、心を奥底を言葉にしないまま。
ちょっとした遊びのように。
青春のアヤマチってことで、割り切ってしまえるように。
流されるように今日まで二人だけの秘密を持ち続けてきた。
「身体が冷え切らないうちに帰りましょう…」
喉まで出かかった内心の言葉を呑み込んで笑顔を作る。
「…ん」
一瞬の躊躇の後で、聞こえてくる返事。
そうですよね。今日くらいは…このまま帰りましょう。
溢れそうになる言葉を呑み込んでばかりでは疲れます。
まだ、言うべきでないし、言える状況ではない。
それが解っているから。今日は笑顔でさよならを言いましょう。
次の溜息が落ちるまでの間…
あなたを強く…抱きしめさせてください。
あなたが腕の中に居る。
ただ…それだけの一瞬が。
僕にとってのシアワセで。
あなたにとってのシアワセであればいいなと。
言葉に出来ない…溜息のような祈りで願うばかりです。
−END−
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選択肢は(3)→(4)でした。
すみません。 切ない感じで終わっちゃいました。ゴメンです。