2006.09.11 Monday
9月10日は長門記念日(ちょっと遅れて…その1up)
9月10日は長門記念日(その1)
永遠に終わらないのでは? と、思うほど無限ループを繰り返した夏休みもようやく終了し、9月に入った。バカに熱かった8月とは打って変わって、夜はめっぽう涼しくなって秋になりつつあるなぁと、ほんの少し寂しくなった。
ふとカレンダーに目をやる。
久々に何の予定もない週末だった。
今日は土曜日で9月9日。なんとなくゾロ目って気分が良いな。
そういえば、9月って長月ともいうよな。
長月の由来は、「夜長月(よながつき)」の略だっけ。
本を読んでいないと死んじゃいそうなほど本好きの長門には、秋の夜長は楽しいかもしれんなぁ…。
な〜んてことを考えながらベッドでボケボケごろごろしていた土曜日の朝。
「キョンくん〜っ!」
甘えた声と共に、腹にエルボードロップが直撃!
妹が全体重を一点に込めて強襲してきた。
「うぅっ、なんだよイキナリ」
ぼさぼさ頭をかきながらおもむろに起き上がる。
「あのね〜福引き行こうっ! 今日までなの〜〜!」
おねだりして甘えるなら、エルボーはヤメロよ…妹。
「なんで、俺が…」
「お母さん忙しいって言うんだもん。電車乗って行くんだよ〜」
握りしめた福引き券は少々遠い街にある老舗デパートのマークが印刷されていた。
半泣き顔(嘘泣きだろうけど)で、おねだりしているので無下にも出来ず、母親が忙しいのはホントのことだったので、気分転換にでも行こうかと腰を上げる。
「福引きだけで良いのか?」
どうせ街まで出るんだ、ついでに妹の行きたいところにも連れて行ってやろうと思った。
「えっとね、映画に行って服買うの〜♪」
既に母親から軍資金をせしめているらしく、ニコニコ顔で笑っている。
しかも、既に余所行きの服に着替えてスタンバっている。
「ああ、わかったから…」
早く早くと急かす妹を部屋から追い出して、手早く着替えて身支度をした。
朝飯は喰わなくても問題無いので、母親に一言告げて多少の軍資金を得てから家を出た。
上機嫌の妹を連れて街へと向かう。
映画の時間は既にチェック済みなので、先に主目的である福引きへと向かった。
福引き最終日だったので、景品も8割がた出てしまった後なので、あまり期待しない方が良いかもしれない状況だった。
「福引き…まかせたぞ」
こういう運任せのイベントは、よく解っていない(欲深くない)妹が引く方が当たる確率が高いので、いつも任せることにしていた。
電動のルーレットでストップボタンを押すタイプのクジなので、背の低い妹にも配慮されているのは助かる。(ガラガラ回すタイプだと抱き上げてやらんと出来ない場合もあるからな)
「うん、任せて〜♪」
全部で10回ほど引けるようで、意気揚々とボタンとルーレットを交互に眺めてから妹は適当にボタンを連打した。(流石だな〜欲が無いから迷いが無いっ)
結果は
7等(バスバブル)×6
6等(ミニアルバム)×1
5等(ペアのマグカップ)×1
4等(夫婦茶碗)×1
そして、なんと特等の海外旅行:ペアで北欧1週間の旅が当たってしまったのだ。
クジ運良過ぎっ! お兄ちゃんはビックリだぜっ!
「えっ? なになに…当たったの?」
デパートの店員が慌てている。段取りが狂っているような風情だ。
たぶん、特等は最終日である今日の夕方まで出さないつもりだったのだろう。
「ねぇ2人しか旅行行けないの?」
「ペアって書いてるからな。3人で行くとなると追加料金がいると思う」
「北欧って寒いよね」
「まぁ、北だからな」
「だったら行かないっ、替えてもらおうよ」
「替えてもらえるか、訊いてみるから待ってな」
まだ慌てている風の店員に交渉してみると、予想外にスンナリいった。
やっぱり特等がさっき当たったのは設定ミスらしく、デパート側にとっては特等を午前中にどうしても出したくない様子だった。商売する側は色々大変なんだろうけど、そこは当たったもん勝ちだから交渉の主導権は俺が握った。
【ペアで北欧1週間】を一般ツアー価格に換算すれば30〜40万相当の価値があるから、安易に手放すわけにはいかない。デパート側も色々言っては来たが、『だったら特等持って帰ります』と、きつめに言うと折れてくれた。
結果、2等の【サファイヤリング(5〜10万円相当?)】と商品券10万円分で手を打った。
渋い顔をしていた店員だったが、特等の権利を返上してもらっただけでも助かったようで、最後は感謝の表情だった。(すまんな、計算高い高校生で…)
「ねぇねぇどうだった?」
「ほれっ、2等の【サファイヤリング】だ。はめてみるか?」
正直、このとき選んだ2等は母親か妹にやる予定だったんだ。
「え〜っとね。青い石はあんまり好きじゃないの。だからいらないっ」
「いらんのか?」
「うん、お母さんも青い石より赤い方が好きだよ」
うぅ…知らんかった。
子供子供してても、好みはちゃんとあるのか。
それに、母親の好みにも気付かないとは…俺って迂闊だなぁ。
「商品券で好きなの買うか?」
特等を当てたのは妹なので、やはりなんか良いものを買ってやるべきだと思った。
「いいよぉ、福引きやりたかっただけだから」
えへ〜っと笑って、映画に行こうっと手を引っ張られた。
これで、キョンくんなんて呼ばずに『お兄ちゃん』と呼んでくれれば、申し分のない可愛い妹なんだがなぁ…。
なんて、心の呟きを呑み込んでこの日は1日妹の我が儘に付き合った。
この日の妹は異常にクジ運抜群で、映画館来場5万人記念とか、服を買った店での即席クジでこれまた特等を当てるなど、行く先々でミラクルなことをやってのけた。
四時過ぎて歩き疲れた風の妹を背負って家路についた。
よくよく考えると高校生になってからSOS団の行事で忙しくて、こいつとゆっくり出かけたことは無かったな。たまには遊んでやらんとなぁ。
そんなこんなで、夕食時に戦利品を自慢気に母親に見せびらかした妹は自分の欲しいモノだけ選んであとは好きに分けてねと、これまた欲のないことを言って、母親と俺を呆れさせた。ちなみに妹が選んだのは、即席クジの特等で女の子向けのショルダーバックだけだった。
母親はデパートの商品券とバスバブルだけでいいからねと、残りを俺によこしてにっこり意味深に笑った。
なんだかなぁ…。
ミニアルバムにペアのマグカップに夫婦茶碗…そしてサファイヤリング?
なんだよこのラインナップは…? もろにカップル仕様っでないか?
恋人…いるんでしょ。だったら、たまには彼女にプレゼントしなさいって、いうオーラが母親の背中に見えたのは気のせいか?
まぁ…恋人っていうか…それっぽい人はいるんだけどな。
「それっぽいって、ダメよ。ハッキリさせておかないと…女の子はナントナク付き合うって状況が続くと不安になっちゃうんだからね」
わかってるんだか…わかってないのか?
独り言のように軽く呟いた母親の言葉が、妙に心に突き刺さった。
ちゃんとハッキリ言っていなかった・・・長門に。
俺って、やっぱり優柔不断の迂闊者だっ!
なんとなく…長門の好意に甘えてばかりで、何も言っていないっ!
目の前に積み上がった景品を抱えて、自室に飛び込んだ。
今更…なんて長門に言う?
夏前から、SOS団行事以外でふたりっきりで出掛けてたりしていたのに…
2ヶ月も過ぎて…何を改まって告げればいい?
ぐるぐる考える。
長門の誕生日なんて、わからないし…訊いても教えてくれないかもしれない。
それに、クリスマスなんてまだまだ先だ!
なんか都合の良いイベントがあれば、それに漕ぎ着けてなんとでも言えるのにっ!
なにかないのかっ!?
カレンダーをマジマジと見る。
明日の日曜日は9月10日。
長月の十日っ!つまり『長門の日』…な〜んて漕ぎ着けてしまおうか?
そうだ、それがいいっ!
長月ってのは、読書好きの長門にぴったりだしな。
そうしよう、ケーキとか買って行ってサプライズパーティーをしようっ!
思い立ったら即行実行だっ!
ヘタレ野郎なんて言わせないぞっ、俺だって、やるときはやるんだ。
心臓がバクバク鳴っているが、ソイツは無視して長門に電話を掛ける。
「あ、俺…明日ヒマか?」
『…割と』
「だったら、そっち行っても良い?」
『…いい』
「2時で良いか?」
『…いい』
長門はいつも最少の台詞しか言わない。
でも、それはそれで有難い。
「また…あしたな、おやすみ」
『…おやすみ』
長門の小さな声を拾った携帯を握りしめて、明日のことに想いを馳せた。
一世一代の告白がすべらないよう…祈るばかりだ。
だってなぁ…やっぱり人生最初で最後にしたいよな。
長門有希以上の存在になんて、この後の人生…出会えるはずないのだから…。
ごめんなさい…(その2)に続きます。
制作期間2006/09/10〜11 (前置きが長かった…キョン妹が出張り過ぎ!)