2006.08.05 Saturday
ギャルソン喫茶(その6)…キョン&長門
今回はノーマルカプで長門っちメインです。
(その6)は前作を読まなくても楽しめる仕様になっています。
アフタヌーンティーのメニューに関しては、こちらのブログ記事を参考にさせてた抱きました。
→【人気のマンダリンオリエンタル東京アフタヌーンティー】
ふたりで3〜5千円が高級ホテルでのアフタヌーンティー価格って感じですね。
長門→キョン ひたすらって感じ? キョンは何気に鈍感仕様?
一般の方もOKです。(古泉がホモっぽいのは目を瞑ってください…)
2006/08/07 長門&キョンイラストup!
↓
(その6)は前作を読まなくても楽しめる仕様になっています。
アフタヌーンティーのメニューに関しては、こちらのブログ記事を参考にさせてた抱きました。
→【人気のマンダリンオリエンタル東京アフタヌーンティー】
ふたりで3〜5千円が高級ホテルでのアフタヌーンティー価格って感じですね。
長門→キョン ひたすらって感じ? キョンは何気に鈍感仕様?
一般の方もOKです。(古泉がホモっぽいのは目を瞑ってください…)
2006/08/07 長門&キョンイラストup!
↓
ギャルソン喫茶(その6)…キョン&長門
やや青みがかった瞳は真冬の水面のように平坦な光を映して、俺を見詰めていた。
「いらっしゃいませ。おひとりさまですか?」
複数人で行動するのはSOS団の活動時に限られている長門に、この決まり文句は無意味とは思ったが、やはり接客業は形を崩すと後が続かないのでマニュアル通りに対応する。
ほんの僅か…数ミリ単位の移動距離で長門の顎の先端が下がった。
ざっと店内を見回し、窓際の奥まった席が空いていたのでその場所へと先導する。
実は、その席はVIP席の扱いで、ちょうどデパート店外のアーケードからも、デパート側の入口からもよく見えるゾーンにあった。特に喫茶店のイメージupに貢献しうる容姿端麗・才色兼備なイメージガール(各ギャルソンの主観)に優先的に座っていただくスペシャルな席だったりする。
ハーフミラーの窓に反射して映る北高の制服姿は、商社系OLさんや小洒落たセレブな奥さま連中のさざめくある意味お花畑な空間で、水面ふわりと浮かぶ水中花のような独特な…いや、氷に閉じこめたスミレのような不思議な雰囲気を放つ。
「長門のクラスも休講だったの?」
ミネラルウォーターとメニューを運んだ際に、ふと思いついて小声で確認してみた。
「………」
横にも縦にも振られない、無言の返答。
さて、どう解釈したらよいモノか?
自主休講って、ことなのかなぁ…。
視線をメニューに向けたままの長門は、しきりにページを行ったり来たり眺めて、迷うようなそぶりを見せている。
そう言えば…SOS団第1回校外活動の時から、長門はメニューを受け取ってから注文するまでかなり長考するタイプだった。
「お決まりになりましたら、テーブル脇に置いてあります呼び鈴でお呼び下さい…。」
長門の思考を邪魔しない程度の仕草で、呼び鈴を示してカウンターへと下がる。
「長門さんも自主休校ですか?」
背後から無駄に近い距離で古泉の低音が響いた。
って…、やっぱり、お前もさぼりだったのかよ。
「…自主休校しても特に支障の無い授業でしたから」
いわゆるひとつの階級差か…?
俺は一般クラス内でも赤点ギリギリ低空飛行を続けているわけだが…。
いいよなぁ…数理系コースのクラスで成績上位を無難に取れる頭のあるヤツは…なぁ。
「…クイズ好きというか、ミステリー好きの延長ですかね? ある仮定値から論理的思考を重ねていけば答えに到達するっていう、感覚が好きなのですよ。マークシートとか…実は好きなんですよね。消去法で考えれば到達できる解答なんて、実は…楽勝だったりします。」
軽く殺意覚えたぞ、古泉っ!
こんな変な趣味のヤツがいるから、一般的…平均的な(いや…ちょっと下かもな?)頭脳を持つ俺らが困るんだっ!
内心の葛藤を思わず視線から放っていると…
「久々にあなたと目があったような気がします…」
ちっが〜うっ!!
これは殺意だっ! 調子に乗って、擦り寄ってくるなっ!
意味不明(と信じたい)のスキンシップをやたらしようとする古泉を払いのけ、目線を長門へと戻した。
まだメニューをいったりきたり思案している。
やはり…価格設定が高すぎるよなぁ…この店は。
本格的英風アフタヌーンティーを売りにしているこの店は、調度品から食器類・BGMまで懲りまくる高級志向だから、庶民の財布ではちょっとお茶でもって入るようレベルではないのだ。
その中に経費として俺らの破格なバイト料が含まれているのだから、心苦しい部分もあったりで…。
長門が喜ぶなら俺の1日のバイト料を全額注ぎ込んでも惜しくないって断言できるのだが…、すぐ横でニコニコ笑顔を振りまいている古泉の動向を考えると、積極的に動くわけにも行かず…どうしたものか?
行ったり来たりする思考に強制終了を掛けるようなタイミングで、『チリリ〜ン♪』と、長門の席の呼び鈴が鳴った。
ちなみに…ウチの呼び鈴はファミレスにあるようなボタン式ではなく、クリスマスとかに5〜6人の集団で演奏したりする『ミュージックベル』なんていう楽器を使用していて、席毎に音が違っている。
絶対音感の無い人間には解らないかもしれないが、長門の席はB♭の音だった。
「ご注文はお決まりですか?」
滅多に見たことがない長門の瞬きが、その意図を示したように思う。
っていうか、決まってないなら呼び鈴鳴らさないよな。
アンティークドールのような柔らかな肌色の指先が、メニューの一項目を指し示す。
『アフタヌーンティーセット:スペシャルパーティーセット』???
今まで、受けたこと無い品目で思わず呆気にとられてしまう。
いや、それ以上に…値段もビックリだ。
……7850円って、ナニそのぼったくり価格?
それだけ出すくらいなら、俺はフランス料理フルコースとか、居酒屋豪華飲み放題コース(未成年だけど)とかを選ぶぞっ!
「え…、長門…マジこれ?」
「そう…」
「高いぞ…」
「……問題無い」
「3名以上って書いてあるぜ…、ひとりで食べれる量じゃないぞ」
まだ運んだことのないメニューなので、具体的な説明は出来ないが、喰いきれなくて残されしまう皿を見るのがイヤなので、思い留まるように言葉を重ねるが、長門の決意は固いようでメニューを指し示す指先は固定されたままだった。
数十秒…いや数分になるか?
視線の攻防の後、根負けして注文を受けてしまった俺は厨房にとって返す。
「A−スペシャルパーティーセット ひとつ」
伝票を注文ボードに貼り付けながら、シェフに声を掛ける。
「久々のSPだな、どんな娘達だい?」
スペシャルって付いてる訳だから、この人の良さそうなシェフ(パティシエ兼任)に、とっても特別な思い入れがあるらしく、カウンター越しに視線を店内へと向ける。
「…達っていうか、彼女…ひとりなのですが…」
言いよどんだ俺。
流石に、残すのを前提に作れって言うのは心苦しい。
「あのっ、友達で…ちょっと世間知らずっていうか、こういうコトには慣れて無くって……」
なに言ってるの俺っ?
ってな、状態だったのだけど…気持ちは伝わったようで…
見かけ通りいい人なシェフは、ニッコリ笑って頷いてくれた。
「もしもの時は…責任を持って、俺が有難く頂きますので〜。」
あぁ…、なんてこったい。
自分でもよく解らない恥ずかしい台詞を言ったような気がしたが、そこはそれ聞き流していただきたい。
古泉が妙な視線っていうか、それは嫉妬とかそういう種類の視線なのか?
やめてくれ気色わるっ…
イヤ違う…気のせいだ。気のせい……。
そう、気のせいだ。(自分に暗示を掛けている?)
3段のティースタンドに乗せて運ぶのが、一般的なアフタヌーンティーセットの手順だが、今回のスペシャルパーティーセットは違った。
品数が多いので、全部をまとめて出してしまうと、表面が乾いたり適温から外れたりしてしまう可能性があるので、ひと皿ずつ出す手順となっていた。
まずは、サンドイッチ。
生ハムとスライスしたメロン(低糖度)、トマトとルッコラに半分融けたチーズを挟んだホットサンド、サーモンとオニオンのマリネ風味、ふわふわ卵とレタスを挟んだの4種類。
一口にちょうど収まるくらいの大きさにカットされたサンドイッチ。
2種類を皿に載せてテーブルに運ぶ。
飲み物は3種類まで好きに選べ設定になっていて、最初はアイスミントティーを長門の席に運んだ。
透明な氷が満たされたグラスに熱々のミントティーを注ぐ。
氷が溶けて中の気泡が弾けてパチパチという音を立てる様にじっと目線を合わせているの長門。
なんとなく理科の実験をしている気分になってしまう。
おっといかんな、ここでサンドイッチの説明やら蘊蓄やらを述べねば。
自慢げに語ったシェフの言葉を思い出しながら、難しい料理言葉を変換して説明する。
個人的に言えば、生ハムメロンなサンドイッチは俺も是非とも食べてみたい。
アニメやらマンガやドラマでのハイソなパーティーシーンで必ず用意されている生ハムメロン。そんなに旨いモノなのか? それを何故にサンドイッチにしているのかワカンナイシェフのセンスがどうしても興味津々で…
カウンターから運んでくる最中は、つまみ食いしたい誘惑に駆られまくっていたりする(苦笑)
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか…
(でも顔に出ていたんだな)
ミントティーのグラスに向けられた長門の視線が、俺の瞳にと照準が固定された。
うっすらと頷くようなそぶりを見たような気がした。
つまみ上げた生ハムメロンサンドをしげしげと見詰めて、ひとこと宣う。
「食べて…」
…………………?
なんですとっ? 長門さんっ?
俺はギャルソンであって、給仕するのがお仕事であって…
一緒にそのサンドイッチを食したり出来るような立場ではありませんって…、おぃっ!
店内に流れる柔らかなアイネ・クライネ・ナハトムジークが、意識の遙か彼方にすっ飛んでいってしまう。
シルバーメタリックのトレイを抱えたまま硬直している俺に、小さく手招きをする長門。
そろっと近付いてみる。
「構成要素はそれぞれ理解できる。ただ…生ハムというアミノ酸を主体とする食物と、果物に分類されその中でも果糖が多く含まれるメロンとを組み合わせて食すという類を見ない組み合わせが私を躊躇させる。」
小声で早口に呟いた長門は、明らかに戸惑っている。
その感覚は俺にも分かる。
酢豚にパイナップルとか、ドライカレーの中の干しブドウとか、一瞬…料理界の常識を疑うような組み合わせは得てして多い(それはそれで旨いが…)。
「食べて…」
その台詞、語尾をもう半音高めにお願いしますっ!
ってか、平坦な長門口調でもマジ萌えなんだが………。
シャツ左袖をそっと引き寄せられる。
目の前には、生ハムメロンサンド。 (ここ、笑っちゃダメ)
ヘタに逡巡してるヒマはない、ここはサクッと目の前のソレを食して、旨かったぞ一言感想を言ってさっとこの場を離れるのが上策だ。
女の子の一口ちょうどサイズなので、俺の口に余裕で入るソレを可能な限り平常心で口に入れた。
…が、その後がマズかった。
口を閉じた瞬間、長門の指先が俺の唇に触れた。
精一杯の平常心が、ダイナマイトでぶっ壊される古いビルのように一瞬でガラガラと崩れ落ちていく。
「……おいしい?」
長門の問いが沸騰し掛かった脳内を通過していく。
あぁ、旨いって、すっげー旨いよ。味がわかんねーくらいだ。
いかん、説明になってないな。
正直に言おう。
マジに味が解らないのだが、旨いと断言できる。
そう言うことだ、そう言うことにしておいてくれ〜!
必死の思いで、コクコクと首を縦に振って長門にも食べるように促す。
俺の口元と、指先を交互に見詰めて…
しばらく思案した後、その指先を薄桜色の唇へと持っていき、ほんの少し首を傾げてゆっくりと瞬きをした。
あの…、その仕草はいったいどういう意図で・・・・?
お〜〜いっ、長門さ〜んっ!
ジッと俺を見詰めていた視線が、皿の上のサンドイッチに移動する。
直線的な動作で、ひとつ摘み上げて口に入れる。
「…………」
ディフォルト状態に固定されたままの表情で、食されると給仕する俺としても不安になってしまう。
そのままカウンターに戻るか、長門の様子を見ているかで、行ったり来たりしていた思考は、やはり長門側に傾いてしまっている。
小さく動く口元が止まった。
白く眩しい喉元が少し動いた。
「…………不思議…でも美味しい」
そうだろう、そうだろうっ!(ウチのシェフは凄いんだぜっ!)
ちょっとしたトラブルで、味覚機能を麻痺した俺が言うのもなんなんだが、旨いに決まってる。
さて、長門の躊躇もこれで解消されたようなので、本来の業務に戻ろうと小さく会釈してカウンターへ戻ろうとする袖を、再び小さく引っ張られた。
「………食べて」
トマトとルッコラのチーズホットサンドをつまんで先ほどと同じ角度で上げた状態でストップしている。
あの〜、長門さん? ルッコラはちょっと珍しいかもしれないけど、普通のハーブですよ、そんなに不思議なモノではありません。
「……ルッコラはアブラナ科の地中海沿岸が原産の一年草であり、古くから惚れ薬の効果があると信じられ、ローマ帝国の時代(紀元前27年)から栽培されている。惚れ薬の効能についての文献は多数あるがその効果の程は不明確。……安易に食して良いモノだろうか?」
真剣に思案しつつも、俺に試食を促す長門の意図が解らん。
最近では、スーパーの野菜コーナーにも並んでいるルッコラが、惚れ薬になっちゃったら、日本の少子化問題もあっさり解消されてるってもんだよ。
それに、ルッコラに効き目抜群な惚れ薬効果があるなら、喫茶店のメニューに普通に載るわけもなく、きっとご禁制の品になっているだろう。
そこらへんのことを、わかりやすく説明しようと口を開き掛けるが、差し出された、目の前のホットサンドを無視することは出来なかった。
今度は慎重にそれを口に入れて閉じる。
そう、長門の指先に触れないように…注意して。
正直…内心は、触れたいとも思うが…それは考えない方が良いだろう。また味覚が機能不全を起こすからな。
俺は、十分注意したはずだった。
…したはずだったのだ・・・。
固定されていたはずの長門の指先がついっと動いて、閉じた瞬間の唇に挟んでしまった。
はぅっっ!
さっと頭を反らして逃げたものの、その事実に変わりはない。
周囲のお客様方には、ちょうど良い具合に背を向けているポジションなので、その点は良かったが…カウンターからの古泉の視線が痛い。
その指先をマジマジと見詰めて…
…って、おいっ、その指を自分の口に持って行ってどうするんだっ!
「……どう?」
指先を口に触れさせた状態での問い掛けは、非常にそそる。
それは、断言できる。
…が、長門の質問に対しては、どう答えていいのかは解らない。
長門が気にしているのは、ルッコラの惚れ薬的効能であって、それが効いてるか効いていないかなど、現時点で解るわけはない。
喫茶店で普通に出す料理にそういう効果が有るわけ無いのであって、惚れ薬的効能に関しては、無いと先に断言すべきだが、日頃無表情な長門からほんの数ミリグラムの感情が含まれた視線で問われると、あっさり否定は出来ないのが俺的クオリティ?(誤用?)
「旨いぜっ…」と、しか言いようがないのだけど。
「……………惚れ薬?」
「…そういう効果は無いと思う」
「………そう」
いつもの『…そう』という台詞にうっすら残念そうな響きが含まれていたのは、気のせいでは無いと思う。
「効果抜群な惚れ薬的料理を普通の喫茶店で出すわけにもいかんだろう。ふつうに美味しいホットサンドだぜ」
沈黙の中に落胆の気配がやんわり漂ってくるので、軽い口調でホットサンドを勧める。
そろそろとホットサンドを口に運ぶ。
「……」
「な、旨いだろ…?」
「………」コクリ。
無言のまま頷いているので、ほんの少し安心。
「ごゆっくり…な、長門」
名残惜しいが、バイトなギャルソンの俺は働かねばならない。
食べ終わる頃に次の皿持ってくるからと言い置いて、見上げる長門の視線に後ろ髪を引かれながらカウンターへと戻った。
カウンターに戻ると、古泉がハンカチを咥えて涙目になって、キーッとやっていた。
いったいどこの局の昼メロだよ?
しかも、それ…男がやる役じゃないだろう?
黙々とサンドイッチを食す長門にチラチラと視線を送りながら、その他のテーブルへとぐるっと給仕して回る。
あとふたつほどで皿が空になる頃、カウンターへ戻り次の皿をトレイに乗せた。
長門のテーブルの横に立ったところで、最初の皿が空になった。
次の皿と取り替えて、料理の説明を簡単にする。
今回のサンドイッチの組み合わせは、一般的なメニューだったので、長門も躊躇することなく、サンドイッチをつまんだ。
……が、そこでまた…あのお言葉が聞こえた。
俺は一瞬、幻聴だと思ったが…どうやらそれは俺の鼓膜を揺らした長門の小さな声だった。
「……食べて」
あのう…長門さん?
いつの間に、俺はあなたの試食係になったのでしょう?
サンドイッチをつまみ上げて見上げる長門を置いて立ち去るわけにも行かず、結局は皿の上にあった二品をそれぞれ一口ずつ食して、あたふたと感想を述べてカウンターに戻り、古泉の恨みがましい視線に晒されるという、最初の皿と同じ行動をトレースしてしまっていた。
〜 中略 〜
途中経過は省こう。
どこかで誰の恨みを買って、グッサリ刺されたりしたら適わないからな。
(これ以上、刺され慣れても痛いだけだしな)
結果をあっさり言うならば、長門はしっかりがっちり『アフタヌーンティーセット:スペシャルパーティーセット』7850円分を黙々とブラックホールのような胃の中に納めてしまった。
長門の胃袋に収まったメニューリスト
(飲み物は除外、女の子が3人で食べるくらいの量)
サンドイッチ 4種類
生ハムとスライスしたメロン(低糖度)
トマトとルッコラのチーズホットサンド
サーモンとオニオンのマリネ風味
ふわふわ卵とレタス
スコーン 4種類
ブルーベリー・プルーン・パンプキン・抹茶(粒小豆入り)
(クロテッドクリーム・あかももジャム・チョコガナッシュ付)
ゼリー2種類と、ババロア・プティング
ミックスベリーのストロベリーソース
ライチゼリーとビスキュイを添えたもの
マンゴーのババロア
ヨーグルト風味のプティング
アフタヌーンティーのメイン、ケーキ6種類
熱々のアップルパイのアイス生クリーム添え
チョコレートムース
フロマージュブランのラズベリーソース添え
パッションフルーツのムース、
ガトーショコラ
レアチーズケーキオレンジゼリー寄せ
最後に口直しとして、グレープフルーツのシャーベット。
う〜ん、こうして書き並べてみると、大変な品数だった。
しかも、一品毎に俺の試食(指先が唇に触れるドッキリイベント付)+俺の感想(俺の味覚が正しければ…)が、オプションとして長門の中では設定されてしまっていたのが(嬉しい)大問題で…。
微妙にスリルのあるあの幸せな瞬間は、どう表現しても言葉に感情が追いつかないようなもどかしさがあった。
特に、銀のスプーンの上にのせられたガトーショコラなど、どういった顔でそれを口に入れるべきか正直困ったのだが…それも幸せな葛藤だった。
さて、レジで長門にその7850円を払わせるのは、俺的にはNGな訳で…、ついでに言い添えると、本日分の労働の対価を全て献上しても足りないくらい(そのほとんどを長門のテーブルでの給仕だったが…)、オイシイ目にあったのだから、ココは男らしく・・・・。
と、マネージャーに伝票を渡して『俺の払いで』と、言おうとした瞬間、『ここは私の払いで〜!』と、シェフに先を越されてしまった。
シェフは、彼女の健啖っぷりにいたく感動したようで、人の良い笑顔を更にパワーアップさせて、長門の前で頭を下げている。
「……そう」
平坦な声でいつもの台詞を口にする長門。
「なぁ、どれが1番おいしかった?」
あまりに表情なので、流石にシェフに悪いかなと、気を回して長門に質問した。
「………生ハムメロン」
てっきりケーキのどれかかなと、いう俺の予想をあっさり外された。
最初の生ハムメロンサンドイッチを選ぶとは、流石長門だ…。
加えて、シェフにとってもこの生ハムメロンは特別な思い入れがあるらしく、涙を流さんばかりに喜んでいる。
「……また来る」
右手の人差し指をそっと握りしめてそう言った長門の瞳には、微量の…そこはかとなくふんわりとした柔らかな暖かさが含まれていたような気がする。
「どうもありがとうございました。またのご来店お待ちしております。」
マニュアルよりもやや深めにお辞儀をして、長門を見送った。
振り返ると、涙目になっている古泉がハンカチを握りしめていた。
こら、もうヤメロそういうのは…。
ふつーにバイトしろよふつーにっ!
「一品毎に試食して感想を宣うのが、普通のギャルソンですか?」
うぅっ、それを指摘されると痛いのだが、あのまま長門を放置しておくと、サンドイッチをつまんだまま電池切れのロボットのように制止すること確実だから、無視するという選択肢は無かったんだよ。
「それはそうですが…」
まだ何か言いたげな古泉を黙殺して、カウンターに戻って、洗い上がったグラスを磨く作業に取りかかる。
2時間ほど立ち通しで給仕をしていたので、座って出来る仕事は正直嬉しい。
「シェフがおやつにって焼いてくれました」
古泉が運んできたのは、トマトとルッコラののったシンプルなピザ。
「サンキュウ〜」
カウンターの奥に引っ込んで、熱々のピザを口に運ぶ。
「惚れ薬…多めに入れてみました」
って、違うだろうがっ!
マジマジとこっち見て様子を窺うなっ!
効かないってば…!
長門ならうっかり暗示に掛かる(っていうか…それ以前にもう傾いているって説もある)が、古泉…お前に惚れるなんてことは、未来永劫アリエナイって!
「…それは残念です。僕の超能力にもっと便利な機能が有れば良いのですが」
無くていいからっ、マジで。
さっくり焼き上がった薄目のピザは旨かった。
その後のバイトは、おしゃべりを長くゆっくり楽しむグループが多くて回転率は悪かった。ついでに言うと、長門が黙々と食していたスペシャルパーティーセットの注文が次々と入り、給仕を担当するギャルソンの俺たちにとってはちょっと大変な1日だった。
翌日の昼休み。SOS団が占拠した文芸部室。
珍しく長門が団長席にちょこんと座り、パソコンをいじっていた。
「なにか面白いモノでもあったか?」
ディスプレイをのぞき込んでみる。
情報元(はっぴーママ.com:この食べ合わせはいかに!?:生ハム&メロン)が開かれていた。
「データ検索の結果、生ハムメロンは美容と健康に大変良いという情報を得た。また食べたいと思う。」
あぁ、そうだな。今度バイト料が入ったら、ふたりでスペシャルなアフタヌーンティーにしような。
ほんの数ミリ下方に移動した顎の先端。
それが俺的には嬉しい。
「ルッコラの様々な情報を収集し、その成分と調合方法を分析したが惚れ薬としての効果を得られる可能性はほぼゼロに近い…」
その呟きの最後に、『残念』という言葉が続いたように思う。
「ただ…ルッコラはハーブの中でも栄養価が高く、ビタミンCはホウレン草の約4倍、ピーマンの約30倍も含有し、鉄分もモロヘイヤに匹敵するほどの含有率というデータを得た。私にとっては有益。」
そうだな、長門…。
俺は、勝手な作り話でお前を貧血少女に仕立て上げた(信じてもらえなかったが)前科があるからな。もう少し鉄分は取った方が良いと思うぞ。
「そう…またあの店で」
そうだな、今度は客として行きたいよ。
マウスをゆるゆると動かしていた右手を止めて、その人差し指の先を薄く開けた桜貝のような唇にそっと触れさせる。
見上げてくる瞳は・・・・な、長門……?
あ、アレはだな、ある意味ちょっとしたアクシデントであって、べっ別にその指先の感触がどうこうとか、あれは間接的な間接キスって、あぁ日本語変になっているな、俺……ヤバイ?
真剣に長門の視線の意味を考えてはいたのだが、そのガラス玉のような瞳の中には、感情示す色は見いだせない。
いや、見えているのか?
俺が気付いていないだけか?
って、俺勘違いしてる?
この場合、どういう行動を取れば正解なのか、
ワタワタと両手を上げたり下げたり…それはもうカリ城のルパンのような葛藤を繰り返し、ちょうど両手を真上に上げてたところで…
「あと数秒で、涼宮ハルヒがそのドアを開ける」
長門の淡々とした予言で、俺の思考は停止した。
首を傾げた俺を見上げつつ、その人差し指で小さく右袖を引く長門に全神経釘付けになった。
次回乞うご期待って、展開になるかな?
淡く抱いた想いは…何処に向かうのか、それは俺自身も解らなかったりする。
……………続く?
追加制作2006/08/07:絵チャで3号さんが長門にゃんを、Nayuがへたれキョンを…
制作期間2006/08/04〜05:ながとにゃんの表情の微少な振れ幅の加減が難しかった。